
アトピー性皮膚炎について
当院では、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインに基づく治療を行っています。
従来の保湿、ステロイド外用療法やプロトピック軟膏、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏などの外用薬を用いた治療法に加え、光線(紫外線)療法やデュピクセントによる治療も積極的に行っています。
目次
- アトピー性皮膚炎の特徴
- アトピー性皮膚炎の定義とアトピー素因
- アトピー性皮膚炎の診断基準
- 年齢別症状の現れやすい部位
- アトピー性皮膚炎の症状
- アトピー性皮膚炎の重症度
- アトピー性皮膚炎の検査
- アトピー性皮膚炎の治療
- 薬物療法
- プロアクティブ療法
- 生物学的製剤
- その他の治療法
- スキンケアについて
- 皮膚の洗浄
- 保湿薬
- 生活の注意点
- 悪化因子の除去
- ストレス
- 食べ物とアトピー性皮膚炎
- 妊娠・授乳
- アトピー性皮膚炎の合併症
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激に対する過剰な反応が起こることで発症する慢性的な皮膚疾患です。主な症状は皮膚の乾燥やかゆみを伴う湿疹であり、炎症を起こしやすく、再発しやすい特徴があります。また、遺伝的な素因が関与しており、家族歴があると発症リスクが高まることが知られています。
アトピー性皮膚炎の特徴
- 皮膚が乾燥しやすく、かゆみのある湿疹が慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す
- 皮膚のバリア機能が低下しており、外からの刺激に対する反応が過敏になっている
- 家族歴があると発症リスクが高まる
アトピー性皮膚炎の定義
アトピー性皮膚炎は、皮膚の炎症が繰り返し悪化したり改善したりする慢性的な病態を特徴とし、強いかゆみを伴う湿疹が見られます。また、「アトピー素因」と呼ばれる遺伝的な要因が関与しており、特に家族歴がある場合に発症しやすい傾向があります。
アトピー素因とは
アトピー性皮膚炎の発症に関与する素因のこと。以下の2つが考えられています。
- 家族歴:ぜん息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎にかかったことがある人が家族にいる、もしくは患者さん自身がいずれか、あるいは複数にかかったことがある
- IgE抗体:免疫系の一部であるIgE抗体が過剰に産生されやすい
アトピー性皮膚炎の診断基準
以下の3項目を満たす場合にアトピー性皮膚炎と診断されます。
- かゆみがあること
- アトピー性皮膚炎に特徴的な皮疹(湿疹)が認められ、また「左右の同じような部位」に湿疹があらわれる
この湿疹は、おでこ、目や口や耳の周り、首、手や足の関節のやわらかい部分にあらわれることが多く、年齢により症状の現れやすい部位に特徴がある - 皮膚症状が改善したり悪化したりをくり返す(1歳未満であれば2ヶ月以上、1歳以上では6ヶ月以上が目安)
年齢別症状の現れやすい部位
アトピー性皮膚炎の症状は年齢によって出やすい部位が異なりますので、成長に合わせた治療やスキンケアを心がけることが大切です。
- 乳児期
頭や顔から始まり、ひどくなると体や手足に広がる - 幼児期
首や手足の関節、おしりまわりに湿疹ができやすい - 思春期・成人期
上半身(頭、首、胸、背中)の症状が強くなりやすい
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の主な症状には以下のようなものがあります。
- 皮膚の赤みやブツブツ、カサカサとした乾燥
- 強いかゆみによる掻き壊し、かさぶた
- 皮膚ががさがさと厚くなる
重症度
アトピー性皮膚炎の重症度は、以下のように分類されます。
- 軽症:面積にかかわらず皮膚に軽度の赤みや乾燥だけが認められる状態
- 中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%未満に認められる状態
- 重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積のおよそ10%以上で30%未満に認められる状態
- 最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上に及ぶ状態
アトピー性皮膚炎の検査
アトピー性皮膚炎の診断に必須の検査はありませんが、以下のような血液検査項目が症状の強さなどを反映する指標となるため、皮膚の見た目やかゆみなどの自覚症状の確認とともに、定期的な採血検査を行うことで自分の症状の変化を確認しやすくなります。
- 好酸球数
- LDH
- TARC
- IgE
その他、血液検査によるアレルギー検査では、食べ物、花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットなどに対するアレルギー反応を調べることができます。当院では1度の採血で39種類のアレルゲンを調べることのできるVIEW39検査が可能です。
またパッチテストを行い、接触性の(触れたものに対する)アレルギーを調べることで生活上の悪化因子を避ける参考となることがあります。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎は、適切な治療により症状がコントロールされた状態が長く維持されると、湿疹が出なくなる「寛解」と呼ばれる状態になります。ただし、生活環境や生活習慣などにより再び症状があらわれることが多く、「完治(なにもせずにずっと症状が出なくなる状態)」することは難しいといえます。
そのため、治療のゴールは「症状がないかあっても軽く、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達して維持すること」、「軽い症状は続くけれども急激に悪化することはまれで、悪化しても症状が持続しないこと」となり、その後も良い状態を維持していくためにプロアクティブ療法(後述)やスキンケアを続けていく必要があります。
治療は「薬物療法」、「スキンケア」、「悪化因子の対策」を三本柱として進めていきます。
湿疹・かゆみを引き起こす原因である皮膚の炎症に対しては、ステロイド外用薬などの抗炎症外用薬を用い、これに保湿薬などのスキンケアを併用します。治療により皮膚が一見きれいになっても皮膚の奥にはひっそりと炎症がくすぶっているため、治療を途中で止めると次第に悪化していきます。この再発を防ぐために、症状が落ち着いてきたらプロアクティブ療法へ移行していきます。
1.外用療法
- ステロイド外用薬:
・種類:炎症を抑える強さによって、強い順に①ストロンゲスト、②ベリーストロング、③ストロング、④ミディアム、⑤ウィークと、5つのランクに分類されています。
・塗り方:ステロイド外用薬は「塗る量・塗り方」がとても大切です。FTUを意識して適切な量を塗る必要があります。⇨ FTUとは? 薬の正しい塗り方を覚えよう
・副作用について:
適切に使用すれば、内服薬で生じることがある副腎不全、糖尿病、成長障害などの全身的な副作用はありません。長期間の使用により局所的な副作用(ステロイド紅斑や皮膚萎縮など)が生じることがあるため、適切に使用することが大切です。
※ アトピー性皮膚炎で認められる色素沈着は炎症がおさまったことで生じるもので、ステロイド外用薬の副作用ではありません。
- タクロリムス外用薬:
ステロイドと異なる作用で炎症を抑えるため、ステロイド外用薬の長期間の連用で報告されている皮膚萎縮や毛細血管の拡張がタクロリムス外用薬ではありません。塗りはじめにかゆみやヒリヒリなどの刺激が生じますが、ステロイド外用薬である程度炎症を抑えてから使用することで緩和されます。
皮膚がジュクジュクしているところや口・鼻の中の粘膜部分や外陰部には塗らないでください。
- プロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎はよくなったり悪くなったりをくり返すことが特徴です。
一旦良くなったと思っても、日々の生活で接する小さな刺激により、皮膚には常に火だねがくすぶっている状態です。そこで、十分な抗炎症治療で目に見える症状を抑えたあとにも、保湿薬によるスキンケアに加えて、上記の抗炎症外用薬を定期的(週2~3回)に塗って再発を抑えていくことが大切です。
これを「プロアクティブ療法」といい、この治療を上手に行っていくことで徐々に皮膚のバリア機能が改善し、症状が安定している状態を長く保つことができます。
2.生物学的製剤・JAK阻害薬
スキンケアや抗炎症外用薬などの治療でもコントロールが難しい重症の患者さんには、アトピー性皮膚炎の悪化因子となるサイトカインという物質をブロックすることで症状を改善させる生物学的製剤が保険適用となっています。
また、JAK(ヤヌスキナーゼ)の働きを阻害することで皮膚の炎症を改善する内服薬もあります。
当院では、ステロイド外用剤やプロトピック軟膏等による適切な治療を6ヶ月以上行っている方で、効果が不十分な場合にデュピクセントの注射による治療を行っています。
⇨ デュピクセント治療について
3.光線(紫外線)療法
特定の波長をもつ紫外線(UVB)だけを照射する機器を用いた治療法で、表皮のランゲルハンス細胞の機能に働きかけ、免疫系のバランスを整える役割を果たします。これにより過剰な免疫反応を抑えて皮膚の炎症を改善します。通常は外用薬などの治療と並行して行います。
当院では、短時間で効率的に治療が可能な「全身型紫外線治療器:ダブリン7」での治療が可能です。
⇨光線療法とは
4.その他の治療法
上記の治療に加え、かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬や、症状に応じて免疫抑制薬の内服薬(シクロスポリン)や経口ステロイド薬などを併用していきます。
スキンケアについて
スキンケアとは、皮膚を清潔な状態にして積極的に保湿ケアを行うことで、皮膚のバリア機能を保つためのケアのことです。
スキンケアは洗浄・清潔と保湿ケアに大きく分けられます。
1. 皮膚の洗浄
皮膚についたアレルゲン、皮脂や汗、黄色ブドウ球菌や泥汚れなどは皮膚炎が悪化する要因になります。
下記のポイントに注意して、毎日の入浴やシャワー浴で清潔な肌を維持しましょう。
-洗浄のポイント
- 洗うとき
- 汗や汚れが溜まりやすい部位や皮脂の多い部位(頭部、顔、首のシワ、脇の下、鼡径部・陰部、足など)だけ石けんを使用し、乾燥しやすい腕やすねなどはぬるま湯で流す程度にする
- 石けんはよく泡立てて、強くこすらず、シワのあるところは伸ばして丁寧に洗う
- スポンジや化学繊維などは使用せず、素手で「もむように」洗う
- 洗い終わったら
- 石けんの成分が皮膚に残っていると刺激になり悪化することがあるので、しっかりとすすぐ
- こすらないように、軽く皮膚をおさえるように水分を優しくふき取る
- 皮膚のバリア機能で必要な皮脂も流れ落ちてしまうため、洗浄後はしっかりと保湿をする
浴室内でササッと保湿剤だけ塗ってしまうのもオススメ
2. 保湿薬
ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬は炎症を低減させますが、保湿力はほとんどありません。せっかく皮膚の炎症を抑えても皮膚が乾燥してバリア機能が低下したままではすぐに再発してしまいます。
アトピー性皮膚炎の治療では「乾燥肌を治療するための保湿薬」と「皮膚の炎症を治療するステロイド外用薬やタクロリムス外用薬など」の両方が同じくらい重要です。
– 保湿薬の塗り方
- 入浴により皮膚に保持された水分は、入浴後1秒毎にどんどん蒸発してしまいます。そのため、入浴後すぐに(5分以内)保湿剤を塗り、皮膚から水分が逃げないようにします。
- 入浴後すぐに塗れず乾いてしまった場合は、化粧水などで皮膚を湿らせてから塗ると効果的です。
- 保湿薬は皮疹のあるところだけでなく全身に塗ります。
- 指先で塗るのではなく、手のひらに多めにとって、シワに沿って塗ると皮膚に広がりやすくなります。
- 保湿は季節に関係なく一年中続けてください。季節によりクリームタイプのものやローションタイプのものを使い分けて使用するのもオススメです。
– 保湿薬の種類
保湿剤には処方薬の他にもドクターズコスメ、ドラッグストアで購入できるものなどさまざまな種類があります。
皮膚の状態によって使い分けたほうが良い場合もありますので、医師と相談しながら使用しましょう。
代表的な保湿剤に下記のようなものがあります。
- 油脂(ワセリンなど)は刺激がほとんどなく皮膚からの水分の蒸発を防ぎます。
- 尿素製剤は炎症がある部分で刺激を感じますが、あまりべたつきません。
- ヘパリン類似製剤はわずかに特徴的なにおいがありますが、あまりべたつかず塗りやすい特徴があります。乾燥が強い部位では刺激を感じることがあります。
生活の注意点
1. 悪化因子の除去
ダニ・カビやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲンや、化粧品や金属などによる接触アレルギーが悪化因子となります。
特に、家の中のアレルゲンを減らすためにダニ対策、カビ対策、ペット対策の3つの対策を実行しましょう。
- ダニ対策
- 布団を干したり布団乾燥機を使い乾燥させ、丁寧に掃除機をかけてダニの死骸を取り除く。
- 掃除機をこまめにかけたり、ぬいぐるみの洗濯、布製ソファーの清掃などを行う。
- カビ対策
- カビが生えやすい、お風呂・台所・トイレは換気を十分に行い、湿気がこもらないようにする。
- エアコンのフィルターをこまめに掃除する。
- 家の中に植物がたくさんあるとカビが発生しやすくなります。
- ペット対策
- 犬、猫、ハムスターなど毛のあるペットや鳥などはアレルゲンになります。
- これらのペットを飼っている場合は、できるだけスペースを区切って生活する、こまめに掃除機をかける、粘着カーペットクリーナーなどで衣服などについた毛を取り除く、などの工夫をしましょう。
2. ストレス
- ストレスは皮膚炎の悪化要因となります。睡眠などの生活リズムを整え、ストレス発散を心がけましょう。
3. 食べ物とアトピー性皮膚炎
食べ物(食物アレルゲン)が皮膚炎に関与する場合はありますが、食べ物の除去が逆効果となることや成長や発達の障害になることもあるため、安易に食事制限をせず、医師の指導を受けるようにしてください。
4. 妊娠・授乳
妊娠中のアレルゲン除去食はアトピー性皮膚炎の発症予防に有用ではありません。
5. アトピー性皮膚炎の合併症
- 細菌・ウイルス感染症
皮膚のバリア機能低下により細菌やウイルスの感染症にかかりやすくなることがあります。普段と違う症状(皮膚の痛みや腫れ、水ぶくれなど)が出た場合には早めに受診してください。 - 白内障・網膜剥離
アトピー性皮膚炎のかゆみにより顔や目の周りをこすったり、刺激を与えてしまうことで白内障、網膜剥離などが起こりやすいといわれています。また、まぶたに長期間ステロイド外用剤を使用することでも白内障を起こす可能性があります。アトピー性皮膚炎の治療にあわせて、定期的に眼科で診察を受けるようにしましょう。