
多汗症とは?
多汗症とは、過剰に汗をかき、日常生活に支障をきたす病気です。
この病気は、いわゆる「汗っかき」とは異なり、暑いときや運動後などの通常汗をかく場面以外でも大量の汗をかいてしまいます。 多汗症にはいくつか種類があり、原因や症状によって分類されています。
日本皮膚科学会多汗症診療ガイドラインによると、多汗症の症状に悩まれている方は約10%(10人に1人程度)の割合でしたが、その中で実際に医療機関を受診したことがある人は、わずか4%程度でした。
最近では多汗症に対する保険適用の外用薬の種類が増え、特に手やワキの多汗症については外用薬による保険治療ができます。
多汗症でお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。
多汗症セルフチェック
次のような症状はありますか?
以下の項目に思い当たる場合には「多汗症」の可能性がありますので、受診をおすすめします。
- 暑くない、運動した後でもないのに汗をかく
- 手のひらやワキが汗ばんでいることが多い
- 衣服のワキの下部分の汗染みが気になる
- 温度の変化や緊張があると、手のひらやワキに大量の汗をかく
- 手の汗で本やノートなどが濡れる・湿ることがある
多汗症の分類
多汗症には全身に多量の汗をかく「全身性多汗症」と、手のひら・足の裏・ワキなど身体の一部に限定して多量の汗をかく「局所多汗症」があります。
「全身性多汗症」、「局所多汗症」それぞれに、原因のない「原発性(特発性)」と他の疾患などに合併して起こる「続発性」のものがあります。
多汗症の原因
続発性多汗症では、下記のような要因が発症に影響しているとされています。
- 内分泌代謝疾患:甲状腺機能亢進症、糖尿病、肥満症など)
- 神経学的疾患:パーキンソン病など
- 薬剤性:向精神薬・睡眠導入薬・非ステロイド抗炎症薬・ステロイド薬など
- 感染症:結核など
一方、原発性(特発性)多汗症については、精神的なストレスや遺伝的な要因が指摘されることはあるものの、はっきりとした原因はわかっていません。
局所性多汗症の特徴
局所性多汗症では、手のひら・足の裏・ワキ・頭など身体の一部分にだけ大量の汗をかきます。 症状のある部位により病名が変わります。
掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)
手のひらおよび足の裏に多汗の症状がみられます。手のひらだけに症状がある場合は「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」、足の裏だけであれば「足蹠多汗症(そくせきたかんしょう)」といわれます。
このタイプでは、小学校低学年から症状があらわれることも多いです。
重症例では、手足は絶えず湿って冷えやすくなることがあります。また、手足がふやけ、カビ・細菌・ウイルス感染を起こしやすいため、水虫やイボにかかりやすいという特徴もあります。
特に、手のひらの多汗は握手などの社交活動に支障をきたしたり、本や紙が濡れてしまうなどのお悩みで受診される方が多くいらっしゃいます。
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)
左右のワキに同程度の多汗がみられます。
ワキでは精神性発汗(精神的に緊張すると生じる汗)と温熱性発汗(体温調節のために生じる生理的な汗)の2つの要因で汗を生じます。 このタイプは、第二次性徴を迎える思春期あたりから自覚することが多く、下着やシャツに汗によるシミができることの悩みで社会生活に支障をきたすことが多いです。
この腋窩多汗症では、前述の掌蹠多汗症を伴う場合が多いと言われています。 また、脇にはアポクリン腺の分布が多く、汗によって皮膚表面の雑菌が増えることでワキガ(不快な臭い)の原因となることがあります。
頭部・顔面多汗症
頭や顔に多汗がみられます。
このタイプは男性に多いとされており、成人を迎える前後あたりから自覚することが多いです。
頭や顔、耳の上から流れ落ちるほどの大量の発汗が起こります。 熱い食べ物や飲み物の摂取や精神的なストレスなどが誘因となります。数分で発汗は治まることがほとんどですが、症状の程度により数時間から丸一日続くこともあります。
多汗症の診断
問診により下記の診断基準を満たす場合に局所多汗症と診断されます。
局所多汗症の診断基準
局所的に過剰な発汗がはっきりした原因がみられないまま6か月以上認められ、以下の6つの項目のうち、2つ以上当てはまる場合に「原発性局所多汗症」と診断されます
- 最初に症状が出たのが25歳以下である
- (手のひらやワキの下など)左右対称性に発汗が見られる
- 睡眠中は発汗が止まっている
- 1週間に1回以上、多汗のエピソードがある
例)汗で書類がふやけてしまう、など - 家族に多汗症の人がいる
- 多汗により日常生活に支障を来している
例)汗じみが気になって好きな衣服を着られない、電子機器が手の湿気で故障しやすい、汗が止まらず他人の視線が気になる、など
多汗症の重症度(Hyperhidrosis disease severity scale:HDSS)
多汗症の重症度は、自覚症状に応じて以下の4段階に分けられます。
- HDSS 1 汗はまったく気にならず、日常生活にまったく支障がない
- HDSS 2 汗は我慢できるが、日常生活にときどき支障がある
- HDSS 3 汗がほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- HDSS 4 汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
自覚症状には個人差が大きいですが、汗の症状で困ることが多かったり、汗が気になってコミュニケーションに消極的になってしまうような場合には、早めの受診をおすすめします。
多汗症の治療法
多汗症の治療は、患者さんが発汗によって日常生活に支障を来さないよう、生活の質が改善されることを目標としています。
※ 適度な発汗は体温調節などで非常に重要な役割を果たしています。多汗症治療の目標は汗を全く出ないようにする、ということではありません。
外用療法(保険適用)
現在、ワキの多汗症(原発性腋窩多汗症)および手のひらの多汗症(原発性手掌多汗症)では保険適用の外用薬があり、当院ではこれらの外用薬を中心として治療を行っています。
|外用抗コリン剤
抗コリン剤は、エクリン汗腺の受容体と結合することで神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害し、発汗を抑制します。
エクロックゲル®

エクロックゲルは、原発性腋窩多汗症に対する外用薬として、2020年に日本で初めて保険承認された塗り薬です。
【適応】
原発性腋窩多汗症(ワキの汗)
【使用方法】
就寝前や朝シャワー後などに1日1回、専用のアプリケーターを使用してワキ全体に塗り広げます。
右ワキにポンプ1押し分、左ワキにポンプ1押し分を使用します。
※ 手で直接塗り広げてはいけません。手に残った薬剤が顔に付いてしまうと、緑内障・口渇などの副作用を起こすことがあります。
※ 薬剤を塗った後、ワキが乾くまでは寝具や衣服が触れないようにしてください。
【注意事項】
緑内障・前立腺肥大症の患者さんは使用できません。
ラピフォートワイプ®

エクロックゲルに続いて2022年に保険承認された、1回使い切りのシートタイプのお薬です。
1回使い切りなので簡便かつ衛生的に使用できることが特徴です。
使用しやすい一方、汗拭きシートと間違えてワキ以外に使用しないようにしなければなりません。また、開封時に薬液が飛び散らないように注意が必要です。
【適応】
原発性腋窩多汗症(ワキの汗)
【使用方法】
1日1回、個包装を開け、薬剤を含んだシート1枚を使って両脇に塗ってください。
塗って20秒~30秒待って、薬剤が乾いてから、衣類を着てください。
【注意事項】
緑内障・前立腺肥大症の患者さんは使用できません。
アポハイドローション®

2023年より販売開始され、日本で初めて保険適用された手掌多汗症に対する外用薬です。
教科書やテスト用紙などが汗でにじんでしまう、手がつなげないなど、手の汗でお悩みの方におすすめの治療です。
【適応】
原発性手掌多汗症(手のひらの汗)
【使用方法】
就寝前、手のひらの水分をよく拭いてから、手のひらに1回5プッシュ出して、左右の手のひらに均等に塗り広げます。
薬剤が乾くのを待って、そのまま就寝してください。
起床後、手を流水でよく洗います。
※ 起床後に手を洗うまでの間は目や口など、他の部位を触らないようにしてください。
【注意事項】
緑内障・前立腺肥大症の患者さんは使用できません。
内服療法
|内服抗コリン剤
臭化プロパンテリン(プロバンサイン)
手のひらやワキの多汗症では、外用薬での治療が不十分なときに使用されることが多い内服薬です。
頭部や顔面の多汗症では、保険適用となる治療の選択肢が少ないため、治療の第一選択となることもあります。
【使用方法】
1回1錠を1日3回服用します。
【注意事項】
緑内障・前立腺肥大症の患者さんは使用できません。
【副作用】
目のかすみ・口の渇き・頭痛・眠気などを感じることがあります。
|漢方薬
上記の薬でかぶれてしまったり、副作用が出てしまった場合などに漢方薬による治療を行うこともあります。即効性があるお薬ではなく、継続した服用が必要となります。
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
防已黄耆湯は、むくみや多汗症、疲れやすさを改善する漢方薬です。 水分うっ滞の改善、発汗異常の改善や免疫調整作用を持ち、むくみや発汗異常を改善します。
自費治療
|ボツリヌストキシン注入
ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素から抽出した天然の成分を注射する方法で、交感神経から汗腺へ伝わる刺激を遮断することで発汗を抑制します。 以下のような利点があります。
ボツリヌストキシン注入の利点
- ワキの多汗症だけでなく、ワキガの方の臭いの症状も軽くなる
- 1回の治療で約3か月から半年間持続する効果が期待できる
- 手術と違い、注射なので傷跡ができにくい
【注意事項】
治療のリスク・副作用として内出血、注入部分の発赤、腫れ、硬結、痛みなどがあります。
※ 当院ではボツリヌストキシン注入治療は腋窩の多汗症に対してのみ行っています。
→ ボツリヌストキシン注入治療について詳しくはこちらをご覧ください。
|塩化アルミニウム液(自費治療)
汗を出す管(汗管)の細胞に作用し、汗の通り道を閉塞させることで発汗を減少させる薬剤です。 効果は一時的ですが、長期間外用することで汗管へのダメージが蓄積し、汗を分泌する細胞が変性して汗の分泌が減少すると考えられています。
【適応部位】手のひら、ワキ、足の裏など
【注意点】かゆみ・かぶれ(刺激性接触皮膚炎)の可能性があります。
※現在当院では塩化アルミニウム液の取り扱いはありません
その他
上記以外の治療法として、交感神経ブロック、交感神経遮断術、水道水イオントフォレーシスなどの治療が行われることがありますが、当院では行っておりません。