傷あと・ケロイド

傷あと(瘢痕)・肥厚性瘢痕・ケロイド

通常、傷が治るときには一時的に赤くなっても徐々に赤みが引き、その後一時的に色素沈着(茶色く色がつく)が起きても徐々に色が引き、目立たない白い傷となります。これを「成熟瘢痕」と呼びます。

一方このような経過を取らず、いったん治った傷が1~2か月後から赤く盛り上がり、ミミズ腫れのようになることがあり、この場合肥厚性瘢痕もしくはケロイドとなっている可能性があり、多くの場合痛みやかゆみを伴います。

傷あとの範囲にとどまるものを「肥厚性瘢痕」と呼び、傷あとよりも広範囲に赤みや硬化が広がるものを「ケロイド」と呼びますが、見た目で厳密に区別することは困難です。

どのような傷でも肥厚性瘢痕・ケロイドになることはありますが、特にピアスの穴を開けた跡やニキビの跡、帝王切開の跡などに肥厚性瘢痕・ケロイドはできやすくなります。さらに術後や怪我後の激しい運動で皮膚が伸縮を繰り返した時や化膿して治癒に時間がかかった時などは肥厚性瘢痕やケロイドを発症する可能性が高くなります。

|成熟瘢痕(せいじゅくはんこん)

成熟瘢痕とは、はじめは赤かった傷が時間の経過と共に落ち着き、肌色から白色の傷痕へと変化していくのを「成熟瘢痕」といいます。

|肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)

何らかの異常で傷の治りが遅くなると、皮膚を作る線維細胞が過剰に産生され、その線維の増生で傷が赤くなり盛り上がります。肥厚性瘢痕の場合は傷を越えて病変が広がることはありませんがミミズ腫れのように増大することがあります。また、痛みやかゆみを伴うことが多いです。

|ケロイド

ケロイドの発生は「ケロイド体質」と呼ばれる遺伝的な素因が大きいとされています。ケロイドの見た目は肥厚性瘢痕に似ていますが、大きな違いは、傷を越えて正常皮膚まで病変が広がることです。痛みやかゆみも肥厚性瘢痕より強く、治療効果が期待できない場合も多いです。しかし、治療により症状の緩和が期待できます。

ケロイドができやすい場所

ケロイドは耳・顎・下腹部・胸・肩など、生活の動作で皮膚が引っ張られたり擦れやすい部位にできやすいです。
特に下記の原因で傷ができてケロイドになることが多く、注意が必要です。

部位原因
ピアスの傷からの感染
金属アレルギーなどの影響で起こる炎症 など
あごニキビ
下腹部帝王切開
腹部の手術後の縫合痕 など
ニキビ
手術の縫合痕 など
肩・膝外傷 など
(傷がひっぱられて炎症反応が強くなることも一因となる)

また、前述のように傷がキレイに治るかどうか、ケロイドができやすいか、というのは体質が大きく関係しているともされ、人種間でも発症率に差があるといわれています。
白色人種には非常に少なく、黒色人種に多い、黄色人種である日本人はその中間とされます。

肥厚性瘢痕・ケロイドの治療方法

肥厚性瘢痕やケロイドに対する治療法は様々あり、できた部位や状態によって最適な治療法が異なります。特にケロイドは治療効果が期待できない場合が多く、再発、増悪が多いです。

以下のような治療のいずれか、もしくは組み合わせて行います。

  • 内服薬(飲み薬)
  • 外用薬(塗り薬)
  • テープ剤(ステロイドテープ剤)
  • 安静・圧迫・固定
  • 局所注射
  • レーザー
  • 手術

それぞれの治療について解説します。

|内服薬(飲み薬)

トラニラスト(リザベン®)という抗アレルギー薬が現在唯一保険適応がある飲み薬です。皮膚線維細胞の増殖を抑える効果があり、傷の赤みやかゆみの改善・予防効果があります。

その他、柴苓湯という漢方薬も炎症軽減に効果があるとされます。

|外用薬(塗り薬)

ステロイド軟膏やクリームを炎症を抑える目的で使用します。使用しやすく続けやすい治療ですが、効果は限定的です。

|テープ剤(ステロイドテープ剤)

赤みやかゆみに効果が認められます。

抗炎症作用のあるステロイドテープ(エクラープラスター®)があります。ステロイド含有テープは瘢痕を超えて貼ると正常部分の皮膚に赤みを生じたり、皮膚の萎縮を生じてしまうことがあるため、テープは瘢痕より一回り小さく貼るようにするのがポイントです。

エクラープラスターの使い方

銀色の袋から出し、必要な分だけハサミでカットして使用します。
瘢痕を超えて貼ると正常部分の皮膚に赤みを生じることがあります。病変の大きさにあわせて瘢痕内に貼るようにテープをカットします。
ハサミを斜めに傾けて切るとテープと台紙の間に段差ができて、はがしやすくなります。
患部を軽く洗浄し、よく乾燥させた後、プラスチックフィルムを取り除き、患部に膏体面を当てて貼付します。
貼付後12時間又は24時間毎に貼りかえるようにしましょう。
貼り替える際に勢いよく剥がすと皮膚にダメージが起こることがあるため、ゆっくりと剥がすようにします。

注意
かぶれたりかゆくなったりしたら、テープを貼らない日を設けてください。
ニキビが周囲にひどくなったら、使用を中止してください。
妊婦又は妊娠している可能性のある女性は大量又は長期にわたる広範囲の使用を避けるようにしてください。

|安静・圧迫・固定

傷をシリコンシートなどで圧迫することでケロイドの血流を低下させ、炎症を軽減させると言われています。また、肥厚性瘢痕やケロイドは、動作により引っ張られたり絶えず力がかかる部位にできる傾向が強いので、傷を安静に保ち圧迫や固定する方法が有効です。

シリコンテープ、医療用の紙テープ(マイクロポア®)、シリコンジェルシートなどを用います。他の治療法と組み合わせて行うと効果が上がります。

ジェルシートは長期間貼っておくことで、安静や固定に加えて保湿の意味もあります。

素材が柔らかくクッション性もあるため、疼痛が強い部分などにやさしく使用できる利点がありますが、汗をかくと容易にはがれてしまう難点もあります。

|局所注射

ステロイド(ケナコルト®など)をケロイドの中に注射します。塗り薬やテープのステロイド治療に比べて直接注射するため効果が高いですが、注射の痛みが伴うことと、月に一度の治療を継続する必要があります。また、薬が効きすぎると皮膚がへこんでしまうことがあります。

また、女性ではステロイドの影響で生理不順が生じることもあるため注意が必要です。

|レーザー

ケロイドや肥厚性瘢痕の治療に、レーザーを使うことがあります。パルス色素レーザー(PDL)やロングパルスNd:YAGレーザーなどを用いて肥厚性瘢痕・ケロイド内の毛細血管を減らすことができます。
また、赤みなどを伴わない「成熟瘢痕」に対してはフラクショナルレーザーを用いて傷あとを目立たなくすることができます。

※レーザーはいずれも保険適応外

|手術

上記の治療で改善しない場合や傷あとに引っ張られて思うように関節が動かせない時などには手術が行われることがあります。
ただし、単純な手術方法だけでは高い確率で再発するため、放射線治療を併用したり上記の保存的治療方法を併用して再発予防を行います。これらを組み合わせても体質や部位によっては再発してしまうこともあります。